宙とぶDAHON

はじめに

 自転車整備に関する資格を持っていない人がカスタムした自転車は、自転車屋さんに修理を引き受けてもらえなくなることがあります。また、カスタムが原因で交通事故を起こしてしまった場合、自転車の整備不良とみなされて、例え自分が悪くなかったとしても責任を問われることになります。自転車のカスタムにあたっては十分にご留意いただくとともに、プロの自転車屋さんにお願いすることをお勧めします。

 なお、ご自信でカスタムした自転車に不具合が生じましても、当工房は一切の責任を負えません。あらかじめご理解ご了承頂きますようお願いいたします。

DAHON Vitesse D7 for MINI LOVE 2015

DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム - MINI LOVE 2015

Base model : DAHON Vitesse D7 2006 model

Speed : 10speed

Weight : 6.9kg w/o pedals

 悪戯にロードバイクの走りを模するのはなく、ミニベロならではの走りを追求。

 目指したのは『エア・ライド』

 飽くなき軽量化の末に、ついに6kg台をマーク。手に入れたのは比類なき加速力とバイクの存在を感じさせない地上10cmの飛行感覚。もちろんフォールディングタイプのミニベロを語る上で欠かせない携行性も劇的にアップ。


プロローグ

MINI LOVE 2015 カスタムバイクコンテストの表彰式の出待ちのステージの舞台裏で、ビテス君をDAHON賞に選定していただいたアキボウのDAHONテクニカルアドバイザーF氏と対面した時のことでです。

「この度は選んでいただいてありがとうございます」と私。

「選考のポイントは軽量化です」とF氏。

そうでしょうとも!と得意満面の笑みを浮かべていたであろう私。

次の瞬間、F氏の口から「私のバイクはペダル込みで7.1kgです」という信じられない言葉が。

まるで頭から冷水を浴びせかけられたような衝撃に思わず絶句する私。

ペダル込みで7.1kgと言えば、ビテス君と同等、いやそれ以上。

呆気に取られている私を尻目に、「ハンドルポストを折り畳めなくすれば、あと200gから300gは軽量化できます」とF氏。

さらに続けて、「ハンドルポストを折り畳めなくしてもXLの輪行バックに収まります」と謎のアドバイス

ハンドルを折り畳めなくする?XLの輪行バック?

表彰式のステージの上では喜んでいるように見えますが、この時私の頭の中ではF氏の謎の言葉がグルグル回っていたのです。

F氏のハンドルポストを折り畳めなくするというアドバイスが、いわゆる普通のミニベロのフォークを取り付けることだと気が付いたのは、さいたまスーパーアリーナから帰途についた電車の中。

「なるほどそういうことか!」

思わず声に出してしまい、周りの人から変な目で見られながらも、新しいカスタムのシュミレーションに思いをめぐらせていたのでした。

折り畳めなくすれば、あの600g近くあるハンドルポストから解放される。確かに200gから300g落とせるかもしれない。

固定観念にとらわれない素晴らしい着眼点。恐るべしDAHONテクニカルアドバイザー!

でもハンドルポストを折り畳めなくするというのは、掟破りの反則技のような感じがしないでもありません。

それに素直に言われるがままにカスタムするのも面白くありません。

なんとか折り畳むことをあきらめずにペダル込みで6kg台をクリアする方法はないものだろうか?

すでに6kg台はクリアしているわけですから、ペダルの重さ分だけ軽量化すれば良いわけです。最近はチタンスピンドルの超軽量ペダルが手に入れやすくなってきたので、150gくらいの軽いペダルさえ見つけることができればできれば、なんとかなるかもしれない!

というわけでさっそく軽いペダルを探すことにしたのでした。

のっけから波乱の予感

 フォールディングタイプのミニベロは、工具を使わずに折り畳めなくてはいけませんし、折り畳みサイズも大きくしたくありません。特に横に突き出す出っ張りは危ないので、ペダルは折り畳み式か着脱式にしたいものです。そこで選んだのは、片側だけ着脱できるチタンスピンドルの超軽量のペダル。その重さはセットでなんと146g。さらに着脱用のアダプターはMKSのEZYシリーズと互換性がある優れものです。

 さっそく取り付けてみたらあらビックリ!着脱できるペダルを取り付けられるのが左側だったのです。着脱しなければいけないのは、クランクのある右側です。これでは着脱できても全く意味がありません。

 そういえばブロンプトン用と書いてあったような。ブロンプトンとDAHONでは着脱させるペダルが左右逆だったんですね!ガビーン!

 そこでやおら右側を外せるペダルを探しまくったもの、結局落ち着いたのはMKSのコンパクトEZY。左側のアダプターだけはチタン製のものに交換して重さは284g。当初の目論見はもろくも崩れ去ってしまったのでした。

DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム - ペダル

カスタムポリシー

 ペダルが284gですからペダル込みで7kgを切るためには、最低でもペダルレスで6.6kgをマークしなければいけません。世界最高レベルのとんでもなく高いハードルです。でもだからといって形振り構わずカスタムするわけにはいきません。乗りにくかったり、持ち運びにくかったり、カッコ悪かったっリしたら、なんのためにカスタムしたのかわからなくなってしまいます。

 「軽量化のための軽量化はしない」

 それが秘密の自転車工房のカスタムポリシーです。だから走行性と携行性を極力損なわないようにしつつ、見た目もクールなミニベロを目指してカスタムしていかなければいけません。

 さてどこから手をつけるべきなのか?150gであればターゲットを絞り込んで部分的にカスタムすればクリアできそうですが、300gとなるとそう簡単にはいきそうにありません。そこでいつものようにスッポンポンからスタートしたいと思います。

DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム

温存していたもの

 MINI LOVE 2015のカスタムバイクコンテストへのエントリーを決めた時、万が一6kg台を達成できなかった場合に備えて温存していたパーツがあるのです。それはKCNCのEVA製のグリップ。スポンジ素材で作られたグリップの重さはペアで17gしかありません。なんとグリップだけで一気に125gも軽量化できてしまうのです!

 そしてサドルを座り心地が今一つだったためにお蔵入りにしたTRIGONのカーボンサドルに戻せばさらに26g軽量化することができます。グリップと合わせれば151g軽量化できるので、もしもACEのペダルが右側を脱着できていれば、ペダル込み6kg台は楽勝だったわけですが、世の中そう甘くはないようなので、残りの149gは、ひとつひとつコツコツと見直していくことにいたしましょう。

 意外とあっさり300gの半分クリアしてしまいましたが、貯金は全て使ってしまったので、これからが本番です。

 

ペダル込みで6kg台まで残り149g!

抱えていた致命的とも言える欠点とは

 実はMINI LOVE仕様のビテス君は、ハンドルを切ってもタイヤが滑ってしまって曲がらないという致命的とも言える欠点を抱えていたのです。いつもの悪い癖が出て軽さに目が眩んでしまい、超極細のタイヤを履かせてしまったことが原因です。

 「軽量化のための軽量化しない」などと偉そうなことを抜かしているわけですから、この欠点はなんとしても解消しなければなりません。

 

 でもどうしたら良いのか?そもそもタイヤをロードバイク並みに細くしてしまったわけですから、ロードバイクと同じ様に前輪に荷重を掛けて乗れるようにすれば良いということになります。

 では前輪に荷重を掛けられるようにするためにはどうすれば良いのか?その答えはひとつ。ハンドルを下げるしかありません。

 ハンドルを下げて上体を前傾させれば、重心を前方に移動することができるので、ロードバイクのように前輪に荷重を掛けられるようなるはずです。

DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム

 そこで手に入れたのがおよそ28cmのハンドルポスト。今までのハンドルポストは36cmもあったので、およそ8cmほど低くすることができます。このハンドルポストでロードバイク並みのハンドル下がり5cmぐらいまでハンドルを低くできるはずです。さらにハンドルポストを短くしたことによって、なんと欠点を解消することができた上に62gも軽量化!正に一石二鳥のカスタムです。

DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム - ハンドルポスト
DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム - ハンドルポスト
DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム - ハンドルポスト

 ハンドルポジションのカスタムで忘れてならないのがリーチです。単にハンドルポストを短くしただけでは、リーチを詰めてしまうからです。ハンドルポストを短くしたら、ポジションチェンジャーを長いものにしてリーチを詰めないようにしなければいけません。

 そこでC-C長を30mmから55mmに伸ばしてしてリーチをキープしています。

DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム - ポジションチェンジャー
DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム - ポジションチェンジャー
DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム - ポジションチェンジャー

 ハンドルポストを探していたら、とんでもなく軽いアンカーボルトを見つけたので、すかさずゲット!なんとボルトだけで11gも軽量化できてしまいました。参考までにアンカーボルトはハンドルポストをフロントフォークに固定するボルトです。ちなみに左からオリジナルのスチール製、チタン製、アルミ製、さらに今回手に入れたアルミ製のアンカーボルトです。

 意図せずに68gの軽量化。欠点解消と軽量化で一石二鳥!そして100gを切って残り81g。なんとか行けそうな予感!!!

 

ペダル込みで6kg台まで残り81g!

納得できないでいたこと

 MINI LOVE 2015に出展したとき、デザイン的にどうしても納得のいかないパーツがあったのです。それはリデアのブレーキ。 このゴールドにメッキされた部位が悪目立ちしてしまっていたのです。中華系のメーカーの「金色=高級」という価値観は、なんとして欲しいと思いつつも、ビテス君のカスタムは軽量化最優先なので、我慢せざるを得なかったわけです。それでもデザインは重要です。カッケー方が良いに決まっています。

 というわけで、ブレーキはいつも気にしていたわけですが、そんな時偶然見つけたのがAESTのYVB76B-01。見た目はKCNCのVB6と瓜二つですが、ゴールドメッキされた部位がないのでとても良い感じです。チタン製のボルトに交換して、ついでにブレーキレバーもAESTのCNC-70A-02に交換したらなんと、66gも軽量化できてしまいました。

DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム - ブレーキ
DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム - ブレーキ
DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム - ブレーキ

DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム
DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム

 見栄えを良くしてさらに66gも軽量化。問題点や課題を解決しただけで、あっさり285gの軽量化。もしかして目標が低すぎたかも?

 

ペダル込みで6kg台まで残り15g!

ホイール周り

 今回のテーマは「DAHONの自転車はどこまで軽量化することができるのか?」ですから、目標が見えてきたからと言って手を抜かずに、パーツをひとつひとつ検証していきたいと思います。

 まずは心臓部のホイール周り。ニオブ合金製のホイール、シュワルベZX、パナレーサーR'AIR、VelocityのVeloplug、そしてリデアのクイックリリース。ホイール周りで唯一軽量化の余地が残されていたのはリデアのクイックリリース。パンクを修理する時以外ホイールを外すことがないので、レバーが無いタイプに交換して6gの軽量化。

DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム - ホイール
DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム - ホイール
DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム - ホイール

DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム - タイヤ
DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム - チューブ
DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム - Velocity Veloplug

DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム
DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム

 軽量化の余地が全く残されていないかと思われたホイール周りでなんとか6gの軽量化

 

ペダル込みで6kg台まで残り僅か9g!

ドライブトレイン

 リアディレーラーはDURA-ACE7800、スプロケットはTNIのアルミ製、シフターはshimano SL770、チェーンはKMCのX10SL。軽量化の余地があるのはシフターとチェーン。

 シフターはマイクロシフト製のサムシフター、チェーンはintrepidのその名もSuper Litghに交換!あわせて驚きの93gの軽量化。トータル384gの軽量化で、あっさりペダル込み6kg台をクリアしてしまいました。

 もしかしたらペダル込みでUCI規定値越えのアンダー6.8kg台をクリアできるかもしれません。


DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム
DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム
DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム

DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム
DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム
DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム

シフターとチェーンの軽量化で67g+16g=83gの軽量化。トータル374gの軽量化であっさりペダル込みで6kg台をマーク!!

 

ペダル込みで6kg台をあっさり達成!

現在の重さペダルレスで推定6.5kg台!

怒涛の軽量化

 最後に残されたパーツはクランク。プロの脚力に堪えうる強度は宝の持ち腐れなので、競輪選手御用達のNJS仕様のDURA-ACEから、軽さに特化した超々ジュラルミン7075アルミ合金製のACEのクランクとライトプロのチェーングに換装。クランクは一気に142g、チェーンリングは55Tから56Tに大径化しながらも26gの軽量化。ペダル込みでも推定6.7kg台でなんとUCIの規定値越え!

DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム
DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム
DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム

DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム
DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム
DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム

 MINI LOVE 2015の会場で「クランクをカーボンにすればもっと軽くできますよ」とアドバイスしてくれた方がいましたが、最軽量クラスのカーボンクランクであるFSAのK-FORCEであっても665gなので、例えインナーギアを外したとしても600gを切ることはできません。恐るべし超々ジュラルミン!

DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム
DAHON 軽量化 - DAHON Vitesse D7 カスタム

シフターとチェーンの軽量化で142g+26g=168gの軽量化。トータル542gの軽量化!!

 

ペダルレスで推定6.4kg台!

なんとペダル込みでもUCI規定値越えの6.7kg台?

いつもの悪い癖が出て

 それにしても惜しまれるのがペダルです。せっかく超軽量ペダルを手に手に入れたと思ったのに、ぬか喜びだったなんて!

取り外せない右側のペダルを眺めていたら、だんだん意識が遠のいて。。。。ポチッ!


 我に返った時にはなぜか2セット増えていたのでした。そこで増えたペダルを一度ばらして、左側と右側のスピンドルを入れ替えて、アダプタをコンパクトEZYの右側のアダプタと交換すれば、178gの超軽量着脱式ペダルの完成です。


もしかしてペダル込みでも6.5kg台?

デザインを整える

 デザイン面で気になっていたのがハンドルバーの赤ライン。FSAのトレードマークだから仕方ないと言えばそれまでですが、やっぱりデザインにはこだわりたいので、思い切ってノーブランドのシンプルなハンドルバーに換装。軽さについてはあまり期待していなかったのに、なんと14gの軽量化。

 さてこれで全てのパーツが揃いました。いよいよ組み上げです。どこまで軽量化できたのかワクワクしますよね。


そして軽量化のゆくえは?

わくわくしながら組み上げて、確かな手ごたえを感じながら。。。運命の計量!そしてその結果は。。。

DAHON カスタム - DAHON Vitesse D7 - 軽量化 6.3kg台

ペダルレスでなんと6.3kg!

ペダル込みでも当初の目標もUCIの規定値も超えて6.5kg台に到達!

フォールディングタイプのミニベロでは恐らく史上最軽量クラス!

DAHON カスタム - DAHON Vitesse D7 軽量化

DAHON Vitesse D7

Final Version

Base model

DAHON Vitesse D7 2006 model

Speed

10speed

Weight

6.3kg w/o pedals


 組み上げたビテス君に乗ってみると、イメージしていた通り地上スレスレを滑空するような他の自転車では経験したことがない乗り心地、正にエア・ライドです。課題だった前輪のフワフワ感も、解消できています。これならポタリングに連れていけそうです。どこかでブルーのシートポストのビテス君を見かけたら気軽に声をかけて下さいね!

 それではこれでビテス君の挑戦はおしまいです。正真正銘?の最後です。長い間お付き合いいただきましてありがとうございました。