自転車整備に関する資格を持っていない人がカスタムした自転車は、自転車屋さんに修理を引き受けてもらえなくなることがあります。また、カスタムが原因で交通事故を起こしてしまった場合、自転車の整備不良とみなされて、例え自分が悪くなかったとしても責任を問われることになります。自転車のカスタムにあたっては十分にご留意いただくとともに、プロの自転車屋さんにお願いすることをお勧めします。
なお、ご自信でカスタムした自転車に不具合が生じましても、当工房は一切の責任を負えません。あらかじめご理解ご了承頂きますようお願いいたします。
MINI LOVE 2015のカスタムバイクコンテストで「DAHON賞」の賞品としていただいた世界に一台しかないDAHON Curve D7。DAHON乗りにとって正に夢のような自転車を手に入れることができたわけですが、我が家にやってきてからしばらくの間、ずっと箱の中に入れられたままでいたのです。それはなぜか。世界に1台のCurve D7をどうしたものかとあれやこれやと思いをめぐらせていたからです。このまま永久保存しておくのか?それともカスタムするのか?でも生半可なカスタムは許されない。そんな思いを巡らせているうちに、いつの間にやら1年以上の月日が流れ去ってしまっていたのです。そんなある日のこと、Curve D7が押し込められている箱を眺めていたら、なんだか急に可哀想に思えてきたのです。もしかしたら颯爽と走っている夢でも見ているのではないだろうか?例え世界に1台しかない自転車であっても、自転車として生まれてきたらには、走るのが本分。それにカスタムバイクコンテンストでいただいたのですから、カスタムでお返しするのが流儀というものです。というわけで思い立ったら善は急げ!世界に1台のDAHON Curve D7に相応しいカスタムをとことん追求していこうじゃありませんか。
DAHON Curve D7の特徴はなんといっても小さいこと。DAHONの外装式変速機を搭載したモデルとしては、最もコンパクトなモデルです。
16インチのホイールでしかもエントリーモデルのDシリーズなのですから、そもそも走りなど語れる自転車ではありませんが、自転車は走りが命です。たとえ16インチであっても走りには徹底的にこだわりたいものです。
でもだからといって、コンパクトさが売りなのですから、折り畳みサイズを大きくしてしまうようなカスタムは一切したくありません。
そこで目指したのは小ささを感じさせないスポーティな走り。
コンパクトさを1mmたりとも損なうことなく、走りだけを磨き上げた最高にホットなCurve D7にカスタムしていきたいと思います。
どんなに高性能なパーツで組み上げたとしても、色がガチャガチャだったり、ラインがチグハグだったり、誰でも思いつきそうなありきたりのカスタムだったとしたら、世界に1台しかないCurve D7が台無しです。ファッションは個の演出、まとわせるパーツは世界に1台にふさわしい個性溢れるものでなければいけません。だから他の人と被りそうなパーツは避けたいし、かと言って悪目立ちさせてもいけません。ひとつひとつのパーツが強烈な個性を放ちながらも、全体として一体感をもってまとまっている。そんな自転車にカスタムしたいところです。そこで定めたのが3つのポリシーです。
一.他の人が選びそうなメーカーのパーツは避けて、知る人ぞ知る由緒ある名門メーカーのパーツを選ぶこと
一.世界に1台しかないスプラウトグリーンのフレームカラーをより際立たせるために、カラーはブラック、ロゴはホワイトで統一すること
一.DAHON Curve D7のフレームにマッチするエッジの効いたシャープな曲線でデザインされたパーツを選ぶこと
一切の妥協を許さずに最後までこのポリシーを守り通せば、最高にクールなDAHON Curve D7に仕上げることができるはずです。
DAHONはライディングスタイルに合わせて、アクティブライド、スタンダードスタイル、リラックススタイルの3つのタイプの自転車をラインアップしています。Curve D7はシティライドを想定したリラックススタイルの自転車です。いわゆるママチャリポジションの自転車なので、速く走らせようと思ったら、スポーティなフォームで乗れるようにしなければなりません。
自転車のカスタムで真っ先に思い浮かぶのが軽量化ですが、フレームサイズがワンサイズしかないCurve D7の場合は、まずポジション出すところから始めなければいけません。
ポジションの出し方には、実際に自転車に乗ってサドルとハンドルとペダルの位置を合わせるフィッティングと、既にポジションが出ている自転車から写し取る2つの方法があります。写し取るのはサドルとハンドルとペダルの相対的な位置関係を決めることができるリーチとスタック、サドル後退幅、サドル高です。
リーチはクランクの中心からハンドルまで水平距離、スタックはクランクの中心からハンドルまでの垂直距離、サドル後退幅はクランクの中心からサドルの先端までの水平距離、サドル高はクランクの中心からサドル中央の座面までの長さになります。
Curve D7をスポーティなフォームで乗れるようにするポジションは、サドルやシートポストの調整範囲では収まりそうにないので、既にポジションが決まっているロードバイクから写し取ってあたりをつけていきたいと思います。
ロードバイク(KUOTAのKURARO)と、Curve D7のポジションを図って比べてみると、サドルの位置は後退気味で、ハンドルが極端に身体に近くなっていることがわかります。サドルにどっしりと腰を下ろして、脚の重さでペダルを下ろすママチャリポジションの特徴が良く出ています。
スタックはハンドルポスト、サドル高はシートポスト、サドルの後退幅はサドルレールの調整範囲で合わせることができそうですが、100mmも差があるリーチについては、伸ばす方法を考えなくていけません。
ポジション(注1) | DAHON Curve D7 | KUOTA KURARO | 差 |
リーチ(注2) |
440 |
540 | -100 |
スタック | 580-710 | 625 | ±0 |
サドル後退幅(注3) | 225 | 210 | -15 |
サドル高(注4) | 550-700 | 655 | ±0 |
注1:ライダーの身長は178cm
注2:ボトムブラケットからヘッドチューブではなくハンドルバーまでの距離で比較
注3:ボトムブラケットからサドルの先端ではなくシートポストのヤグラの中央までの距離で比較
注4:ボトムブラケットからサドル中央の座面ではなくシートポストのヤグラの中央までの距離で比較
DAHONのフォールディングバイクのリーチの伸ばし方には、右折れのハンドルポストに交換してポジションチェンジャーを取り付ける方法、ハンドルバーをブルホーンやドロップハンドルに交換する方法、バータイプのインナーポストに交換してステムを取り付ける方法の3つの方法が知られています。しかしながら、いずれの方法も折り畳みサイズを大きくしてしまうので、他の方法を見出さなければなりません。
そこで探し当てたのが、termではおなじみのアンドロスステム。アンドロスステムは、ステムの取り付け角度を変えることができるので、折り畳みサイズを一切大きくすることなくCurve D7のリーチを90mmも伸ばすことができるのです。
ちなみにリーチを伸ばさずにハンドルだけ下げてしまうと、手元が詰まって前のめりになってしまいます。上半身の体重を腕で支えなければいけなくなるので、腕や肩への負担を大きくしてしまいます。だから、Curve D7を楽に速く走らせようと思ったら、リーチを詰めるようなカスタムは避けなければいけません。
余談になりますが、一見同じに見えるDAHONのハンドルポストですが、その長さや傾きは様々です。同じモデルであっても年式によって、長さや取り付け角度が異なっています。自分のリーチにあったハンドルポストを見つけることができれば、ステムなど取り付けることなくカスタムできるかもしれません。その反対に、よく確認せずにハンドルポストを交換すると、意図せずにリーチを詰めてしまうことがあるのでご注意を。
ミニベロ専用に設計されたパーツは、メーカーの純正品を除けばほんの僅かしか流通していません。思い浮ぶのはシマノのカプレオくらいですが、エンド幅が135mmなので使える自転車は限られています。ちなみにCurve D7はエンド幅が130mmなのでカブレオは使えません。
だからミニベロのカスタムは、ロードバイクやマウンテンバイク用のパーツを流用するしかないわけですが、大方のパーツは賄うことができます。ただひとつだけ注意しなければいけないパーツがあります。ミニベロでは、普通の乗り方をしていてもロードバイクやマウンテンバイクの想定をはるかに超えて酷使されるパーツがあるからです。それはホイールの回転軸、すなわちハブです。
305サイズのホイールに1.5インチのタイヤを履かせたCurve D7のタイヤ周長はおよそ1m20cm、700Cのホイールに23Cのタイヤを履かせたロードバイクのタイヤ周長は2mおよそ30cm。つまりCurve D7のタイヤ周長はロードバイクの半分しかないことになります。
仮にCurve D7を時速25kmで走らせたとしたら、ロードバイクを時速50kmで走らせている時と同じ回転数でホイールを回していることになるわけです。時速50kmと言えばプロのアスリートレベルの速さです。だから例えアマチュアであっても、Curve D7を気持ちよく走らせようと思ったら、ハイエンドクラスのハブが必要になるのです。
Curve D7のホイールに使えるハブは、リアハブが130mm28Hで、フロントハブは74mm20H。ハブ専門メーカー製で、カラーはブラック、ロゴはホワイトという条件をクリアしたのは、リアハブはDT-SWISS 350、フロントハブは選択する余地がなかったのでRIDEAを採用。ちなみにGOKISOのハブも条件をクリアしていましたが、重かったことと、何よりも高価すぎてとても手を出すことが出来なかったのであきらめました。あしからず。
16インチの場合、ハイエンドクラスのハブで組んだ完組みのホイールセットを入手することが難しいので、ハブだけに注力してアップグレードすることをお勧めします。中途半端なスペックのハブで組んだホイールにアップグレードしたとしても、すぐに物足りなさを感じてしまうようになるからです。
ミニベロは乗り心地が悪いとされていますが、なぜホイールの径が小さいと乗り心地が悪くなるのでしょうか?それは路面上の段差を短い間隔で乗り越えなくてはならなくなるからです。
2cmのギャップを乗り越えるために必要とされる間隔を比べてみると、700Cのロードバイクの場合は11cm、406サイズの場合は10cm、305サイズの場合はわずか8.5cmしかありません。つまり305サイズのミニベロは、ロードバイクよりも少なくとも1.25倍以上の衝撃を受けることになります。406サイズのミニベロと比べても、1.15倍以上の衝撃を受けることになります。この衝撃が前輪や後輪を跳ね上げて、ハンドルやサドルが大きく突き上げているのです。
このミニベロの宿命とも言える突き上げですが、ミニベロを作っているメーカーは、フレームの素材、フレーム構造、サスペンションなど、様々な角度からアプローチすることによって、乗り心地の改善に取り組んでいます。
ALEX MOULTON AM | BROMPTON M | Birdy Monocoque | KHS F-20 | Tyrell FX | DAHON Curve D7 | |
フレーム素材 |
スレンレス 超軟質素材 |
クロモリ 軟質素材 |
アルミ 硬質素材 |
クロモリ 軟質素材 |
クロモリ 軟質素材 |
アルミ 硬質素材 |
フレーム構造 | トラス構造 |
ー |
モノコック | ー | ー | ー |
サスペンション (フロント) | 〇 | ー | 〇 | ー | ー | ー |
サスペンション(リア) | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ー | ー |
ホイールサイズ | 369/406 | 349 | 355 | 451 | 406 | 305 |
例えば、シルキーライドと評されるALEX MOULTONは、考えられる対策が全て施されているのがわかります。超硬質のフレーム構造を有するBirdy Monocoqueですが、前後輪にストロークの大きなサスペンションを配置して衝撃を吸収できるようにデザインされています。
ではCurve D7はどうでしょうか?ホイールが最も小さいということは、突き上げによる衝撃が最も大きいということになるわけですが、フレーム素材、フレーム構造、サスペンションによる対策は施されていません。そもそもCurve D7は、それほどスピードを出さないで乗るリラックスライドを前提としているわけですから、太いタイヤと厚くて柔らかいクッションのサドルだけで十分に衝撃を吸収できると考えられているようです。実際に乗ってみてもスピードさえ出さなければ、さほど乗り心地が気になることはありません。でも、だからこそCurve D7をスポーティに走らせようと思ったら、衝撃に対する対策を講じなければならないのです。
特に身体へに大きなダメージを与える後輪からの突き上げは、タイヤとフレームとサドルを通して伝わってきます。身体へのダメージを和らげるためにはタイヤとフレームとサドルで突き上げによる衝撃を吸収するほかないわけですが、タイヤとサドルは、これ以上柔らかくできませんし、フレームも変えようがないので、普通の自転車であれば手の打ちようがありません。でもCurve D7の場合には、突き上げを吸収できる秘策があるのです。
その秘策とはシートポストです。フォールディングバイク全般に言えることですが、シートポストが異常に長いのです。特にCurve D7の場合、26cmしかないシートチューブに対して、シートチューブから上のシートポストの長さが40cmもあるのです。もはやフレームの一部といっても過言ではありません。
つまりCurve D7のシートポストは、単なるサドル高を調整するための役割だけでなく、乗り心地をも左右する重要なパーツであると言えるのです。
ではどんなシートポストを選べば良いのでしょうか?上からCANE CREEKのサスペンション付きシートポスト、BOMA製のカーボンシートポスツSP-12、3番目と4番目は、DAHON純正品、5番目はカーボン製の直管型シートポスト、6番目はアルミ製の直管型シートポストです。
実はこの中にお勧めできないものがあるのです。正解は1番下のアルミ製の直管型シートポストです。
その理由は
①軽量化を図るために7075などの硬質なアルミ合金製であるため、衝撃を吸収しにくい。
②真っすぐなパイプであるため、下からもろに突き上げられる。
③DAHON純正品のシートポストよりもサドルを25mmも前進させてしまうので、サドルの位置をTTバイクのポジションにしてしまう。
④サドルのポジションが前進しても、リーチを伸ばすことができないので、体重を腕で支えることになり、ペダルに体重を乗せられなくなる。
の4つです。
アルミ製直管型のシートポストのメリットは、軽量化効果が大きいことですが、デメリットも多いので、交換する場合には、ロングノーズ、または、ロングレールのサドルと組み合わせるなど、ポジションへの配慮が必要になります。
ではどれがベストなのかと言えば、BAMAのSP-12以外の選択肢はありません。なぜならば、セットバック25mmで、衝撃を良く吸収し、軽量化も図れるからです。
DAHON純正 | アルミ製直管型 | カーボン製直管型 | BOMA SP-12 | サスペンション付き | |
セットバック | 25mm | 0mm | 0mm | 25mm | 25mm |
材質 | アルミ合金 | 硬質アルミ合金 | カーボン | カーボン | アルミ合金 |
重量 | 555g | 250g~354g | 250g | 384g | 900g |
ポジション | 〇 | ✕ | ✕ | 〇 | 〇 |
柔らかさ(しなり) | △ | ✕ | △ | 〇 | 〇 |
衝撃吸収 | △ | ✕ | 〇 | 〇 | 〇 |
軽量化効果 | ✕ | 〇 | 〇 | 〇 | ✕ |
強度 | 〇 | 〇 | ✕ | 〇 | 〇 |
評価 | △ | ✕ | ✕ | 〇 | △ |
Curve D7でスポーツライドするためには、どんなサドルが良いのでしょうか?その答えは、Curve D7に標準装備されている柔らかくて分厚いクッションが沢山入っているCIONLLI(シャンリー)のコンフォートタイプのサドルが、スポーツライドに向かない理由を考えればおのずと見えてくるはずです。
いわゆるママチャリポジションでのペダリングでは、脚の重さでペダルを落とすので、ペダルに荷重を掛けてもサドルに掛る上半身の荷重にさほど変化はありません。これに対してスポーツライドでは、上半身の体重をペダルに乗せて落とすので、ペダルに荷重を掛ける度にサドルに掛る上半身の荷重が大きく変化します。
厚くて柔らかいコンフォートタイプのサドルでは、ペダルに荷重をかけるとサドルの厚みが増し、荷重を減らすとサドルが沈み込むことになります。これではせっかくペダル掛けた荷重がサドルに吸収されてしまいますし、荷重の変化によってサドル高が上下してしまうと上体が振れやすくなり、腰へのストレスも大きくしてしまいます。
つまり厚くて柔らかいコンフォートタイプのサドルでスポーツライドすると、ペダリングの効率を低下させるばかりか、身体へのストレスを大きくしてしまうということが言えるわけです。
スポーツライドには、お尻に掛る荷重が変化しても厚さが変わらないサドルが向いているということになるわけですが、単純にクッションを薄くしたり、硬くしたりすれば、下からの突き上げをまともに受けてしまいます。ペダリングによる腰の沈み込みを抑えつつも、突き上げによる衝撃を吸収できるサドルを選ばなければいけません。
さて上から見たら同じ様に見えるプロロゴのサドルですが、左からスピード重視の中距離用、ロングライド用、オールラウンド用のサドルです。中距離用のサドルとロングライド用のサドルを横から比べてみると、ロングライド用のサドルの方がクッションが厚くなっています。ロングライド用のサドルは衝撃をより吸収できるように配慮がなされているわけです。オールラウンド用のサドルは、クッションの厚さは中距離用とほぼ同じですが、カーボン製のレールとベースによって衝撃を吸収できるようにしています。
ではこの中で最もCurve D7に向いているサドルと言えるのは、沈み込みが少なくて衝撃を吸収できるサドル、つまりカーボン製のレールとベースのサドルということになるわけです。
406サイズのDAHON Visc P18では、カーボン製のプロロゴのサドルを長年愛用していますが、305サイズのCurve D7では、さらに大きな衝撃に備える必要があります。そこで選んだのがオフロードレース用のサドルであるERGON SMR3 Pro Carbonです。オフロードレース用のサドルは、ロードバイク用のサドルよりも座面が広いのが特徴です。クッションの厚みがなくても下からの突き上げをお尻全体で受け止められるので、身体へのストレスを抑えることができます。さらにERGONのチームカラーとフレームカラーが合っているので、見た目にもバッチリ決まります。
前輪からの突き上げによる衝撃は、手首や指に疲労を蓄積させて握力を奪っていきます。その状態で乗り続けると、ちょっとした段差であってもハンドルバーから手が外れやすくなります。完成モーメントの小さな16インチのCurve D7は、ハンドルがとても軽いので、ハンドルから手が離れると危険です。そこで選んだのがオーバルのカーボンハンドルバーと、ERGONのエンデューロ用のハンドルバーです。良くしなるハンドルバーにハンドルを握り易い細めのグルップを合わせることで、突き上げによる衝撃を吸収するとともに、手からハンドルが外れることを防止することができます。
Curve D7のドライブトレインでまず考えなければいけないのが、ペダル一回転で進む距離、すなわち転がりを伸ばすことです。転がりを伸ばす方法は、ホイールサイズを大きくする、チェーンリングを大きくする、スプロケットのトップギアを小さくする、タイヤを太くする、の4つありますが、ホイールサイズを大きくすると折り畳みサイズを大きくしてしまいますし、エンド幅が130mmのCurve D7には、アスクル長が135mのカプレオが使えないのでトップギアを小さくすることもできません。
従ってCurve D7の転がりを伸ばす方法は、チェーンリングを大きくすることと、タイヤを太くする2つしかありません。厳密に言えば、タイヤの幅を太くすると折り畳みサイズを僅かに少し大きくしてしまうことになりますが、誤差の範囲として大目に見ることにします。
タイヤを太くしても、伸ばせる転がりは僅かであることから、残るはチェーンリングを大きくするしかありません。ところがチェーンステイがチェーンの内側を通り、さらに車軸に対してボトムブラケットの位置がとても高い、つまり極端にハンガー上がりの独特なフレーム構造のCurve D7では、チェーンリングを大径化することは容易ではないのです。
チェーンリングを大径化すると、チェーンが通る位置が上がってしまうので、トップギアにシフトした時に、チェーンがシートステイに干渉するようになるばかりか、ローギアにシフトした時にも、内側を通るチェーンステイとシートステイの接合部分に干渉してしまうようになるのです。つまり、チェーンリングを大径化するためには、トップギアにシフトした時には、チェーンラインを内側にずらすとともに、ローギアにシフトした時には、チェーンラインを下げるようにしなければならないのです。
そもそも2014年モデルまでは48Tであったチェーンリングを、2015年モデルから52Tまで大径化しているので、標準仕様の状態で既に限界近くまでチューニングされていたわけです。
トップギアにシフトした時のチェーンラインは、ボトムブラケットのアスクル長で調節するしかありません。ローギアにシフトした時のチェーンラインは、チェーンリングを大きした分だけ、ローギアを小さくして調節するしかないわけですが、ローギアを小さくしすぎると坂を上れなくなってしまうので、ベストな組み合わせを見極めなければなりません。
フロント | リア | スピード | アスクル長 | 備考 |
52T |
11T - 28T |
7S |
118mm |
標準仕様 |
53T |
11T - 27T |
10S |
110mm | |
54T |
11T - 26T |
10S |
110mm |
|
55T | 11T - 25T | 10S |
110mm |
|
56T | 11T - 23T | 10S |
107mm |
2015年モデルの標準仕様である52Tでトップギアの11Tにシフトした時の転がりは5.66m、最も効率良くペダリングできるといわれている70rpm時の速度は23.8km/hしか出せません。フロントが48Tしかなかった2014年モデルの21.9Km/hに比べれば大幅にスピードアップが図られていますがもう少し伸ばしたいところです。最低でも25km/hは欲しいので、フロントを55Tまたは56Tまで大径化して、転がりを6m以上に伸ばさなければなりません。ちなみに転がり6mはETROT406の20インチのスポーツタイプのミニベロのフロント53T、リア13Tに相当します。
ETRTO |
フロント | リア | タイヤ | 転がり | 70rpm | 80rpm | 90rpm | 備考 |
305 | 48T | 11T | 1.50インチ | 5.22m | 21.9km/h |
25.1km/h |
25.1km/h | 2014年モデル標準仕様 |
305 | 52T | 11T | 1.50インチ | 5.66m | 23.8km/h |
27.2km/h |
30.6km/h | 2015年モデル標準仕様 |
305 | 54T | 11T | 1.50インチ | 5.88m | 24.7km/h |
28.2km/h |
31.8km/h | |
305 | 55T | 11T | 1.50インチ | 5.98m | 25.1km/h | 28.7km/h | 32.3km/h | |
305 | 56T | 11T | 1.50インチ | 6.09m | 25.6km/h | 29.2km/h | 32.9km/h | |
406 | 53T | 13T | 1.35インチ | 6.08m | 25.5km/h | 29.2km/h | 32.8km/h | DAHON visc P20他 |
次にロー側の転がりを、コンパクトクランクのロードバイクでインナー・ローにシフトした時の転がりと比べると、56T×23Tの組み合わせでは、ローギアの歯数が足りていないことがわかります。
そこで今回は55Tのチェーンリングと、11T-25Tのスプロケットの組み合わせが最適解ということにしたいと思います。
ETRTO |
フロント | リア | タイヤ | 転がり |
700 | 34T | 28T |
0.98インチ |
2.86m |
305 | 55T | 25T | 1.50インチ | 2.63m |
305 | 56T | 23T | 1.50インチ |
2.91m |
まず、はじめにご理解いただきたいことがあります。今回ご紹介するカスタムは、試行錯誤の末にたどり着いた組み合わせです。フレームとチェーンの隙間は僅か1.5mmほどしかありません。同じパーツで組んだとしても、フレームやパーツの個体差の影響でフレームとチェーンが干渉してしまい、フレームを傷つけたり、削ったりしてしまう可能性があります。
また、チェーンを上手く通せたとしても、走行中にチェーンが踊りフレームを傷つけてしまうので、プロテクターを貼ってフレームをガードしておく必要があります。
チェーンリングを大径化する場合は、細心の注意を払う必要がありますので、予めご留意いただきますようお願いいたします。
クランクは王冠マークがついたスギノのマイティコンペ。チェーンラインを調整しやすいシングル用です。ボトムブラケットはセラミックベアリングとチタンシャフトを採用したアスクル長が111mmのTOKENの8691TBT。チェーンリングはストロングライトの55T。スプロケットはSRAM RED OG1090 11-25T、チェーンはKMCのX10SL。全てハイエンドクラスのパーツで揃えました。
そしてドライブトレインの要となるのがリアディレーラー。チェーンリングを大径化するためにチェーンラインをロー側に寄せたことによってチェーンが外側に脱落しやすくなっているので、チェーンに高いテンションをかけられるものでなければいけません。また、ホイールの半径が152.5mmしかないので、ケージが長いものは使えません。
さらに、Cueve D7は、リアディレラーをフレームに直付けしなければなりません。できるだけ出っ張らない、いわゆるシャドウタイプを選びたいところです。
高テンションかつショートゲージかつシャドウタイプ。そもそもそんな都合が良いリアディレーラーがあるのでしょうか?
実はがたったひとつだけあるのです。それはダウンヒル用のZEE。まるでCurve D7のために開発されたかのようなリアディレーラーです。取り付けて背面から見てみると、レバーが小さなクイックリリースよりも張り出ていないことがお分かりいただけると思います。これなら万一自転車を倒してしまったとしてもリアディレーラーを路面に打ちつける心配はありません。
細くするとタイヤ周長が短くなってしまいますし、太くすると折り畳みサイズを大きくしてしまうので、タイヤの太さは、1.5インチでキープコンセプト。そこで1.5インチの305サイズで最も軽いSCHWALBEのMARATHON RACERを採用。ちなみにMARATHON RACERの重さは298g/輪しかありません。
ブレーキシステムは、巡行速度の高速化にともない、制動力を強化するためにアームが長いTRPのM920を採用。ブレーキレバーもM920に合わせて軽量かつ高耐久のカーボンレバーを採用したTRPのML940をを採用。ちなみにTRPは軽さと制動力には定評がある知る人ぞ知るブレーキ専門メーカーです。
タイヤとブレーキシステムは、基本的にオリジナルモデルのスペックを踏襲しているので、問題が起きることなど全く想定していなかったわけですが、実はここにとんでもない落とし穴が潜んでいたのです。
それはシェイクダウンを兼ねて北九州の平尾台をヒルクライムしていた時に起こりました。上りは全く順調で途中で地元のローディを抜き去るほどの軽快な走りを披露してくれましたが、なんと下りで前輪がパンク、急激な減圧によって制御不能になるという事態に陥ってしまったのです。落車してアスファルトの路面に身体をしたたか打ちつける羽目になりましたが、幸いにも大事には至りませんでした。しかし、このパンクはCurve D7のスポーティな走りを阻む最後の障壁となって立ちはだかることになったのです。
落車してから道路脇に身を寄せて、身体の痛みが収まるの待って、やおらパンクの修理に取り掛かろうと、ホイールを外そうとした正にその時、直ぐに熱パンクであったことがわかりました。落車してから15分以上経過しているにも関わらずホイールに触ることができないほど熱かったからです。ホイールが熱を持った理由として考えられるのは
①夏であったため、路面の温度が高かった。
②峠を上り始めたときに下げたハンドルを上げずに下ったため、前輪に荷重が掛かりすぎた。
③アンドロステムによって重心を前方に移動したため、前輪に荷重が掛かりすぎた。
④ブレーキを強化しすぎたため効きすぎた。
⑤ホイールが小さいため、ブレーキシューで同じところを擦りすぎた。
⑥ホイールの表面積が小さいため、熱を放熱しにくい。
の6つです。おそらくこれらが複層して、熱パンクを起こしたものと考えられます。①は対処する方法がないので途中で水をかけるなどして冷却するしかありません。②と③は下る時にポジションに注意すれば対処できます。問題は④と⑤と⑥です。16インチのミニベロの宿命とも言える課題ですが、命に関わることなのでなんとかしなければなりません。
発熱しやすく熱を放出しにくいという16インチのミニベロの弱点をどう克服すべきなのか?それは前輪の過熱を防ぐことです。前輪さえパンクさせなければ、ハンドルのコントロールを保っていられますし、ハンドルが下がったことによる前倒も防ぐことができるからです。
前輪の過熱を防ぐためには、前輪ブレーキの制動力を抑えれば良いわけですが、抑えただけではブレーキの効きが甘くなってしまうので、その分後輪ブレーキの制動力を高めなければなりません。
そこで、後輪のタイヤを1.5インチのSCHWALBEのMARATHON RACERからSCHWALBEの1.75インチのMARASONに変更してリアブレーキの制動力をアップさせるとともに、フロントブレーキをアーム長102mmのTRPのML940から同じくTRPのアーム長90mmのCX9に変更することによって制動力を抑制。このチューニングによって、フルブレーキした時に感じていた前のめり感が気にならなくなったので、前輪の発熱も抑えられるようになっているはずです。
ちなみにブレーキは、太いタイヤには制動力の大きなVブレーキ、細いタイヤには制動力が小さなキャリパーブレーキといったように、タイヤの接地抵抗に合わせて選ぶのが基本です。例えばロードバイクをVブレーキで制動したら、タイヤをロックさせて停止距離を長くしてしまいますし、マウンテンバイクをキャリパーブレーキで制動したら、とてつもない握力が必要になります。市販されている自転車を参考にすると、キャリパーブレーキは1.25インチまで、ショートアームのVブレーキは1.5インチまで、ロングアームのVブレーキは1.5インチ以上が目安になっているようです。
カスタムに取り掛かった当初は、直ぐに出来るものだと思っていましたが、気が付けば1年以上の月日を費やしてしまいました。その間、平野をひた走り、いくつもの峠を越え、時には島に渡り、のべ1,000km以上の試走を重ねた末に、とりあえず、今の段階で納得のいくカタチが見えてきました。まだ試してみたいことが無いわけでもありませんが、どこかで由としなければ、カスタムを永遠に終わらせることが出来ないので、ひとまずここで完成ということにいたします。
それぞれのパーツの仕様と重量と、そして入手費用をまとめておきましたので、カスタムの一助になれば幸いです。
それでは、長い間お付き合いいただきまして、ありがとうございました。どこかで世界に一台しかないスプラウトグリーンのCurveを見かけたら、気軽にお声下さいね。